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<医療コラム> 手を介して肺炎球菌がうつる?/ 鼻をほじることは、百害あっても一利なし?

< LOTUS CLINIC 医療コラム >

***** 手を介して肺炎球菌がうつる?/ 鼻をほじることは、百害あっても一利なし? *****

滝 沢 美 代 子 医師

 

子どもの頃、鼻をほじるのはやめなさい、と怒られた経験がある人は少なくないでしょう。しかし、実際に鼻をほじると自分自身だけでなく周囲の人の健康にも悪影響があることが、英リバプール熱帯医学研究所のConnor氏らにより「European Respiratory Journal」に発表されました。成人の男女40人を対象としたこの研究では、鼻をほじったり、手の甲で鼻をこすったりすると肺炎球菌が拡散する可能性が示されました。鼻と手が接触するだけでも肺炎細菌が簡単に広がることを初めて報告したものです。

肺炎球菌は、風邪症状に引き続き発症する中耳炎、副鼻腔炎、肺炎、髄膜炎の主な原因菌であり、咳やくしゃみなどで飛び散る飛沫(小さな水しぶき)を介して広がることが知られていて、5歳以下の乳幼児の40-90%、成人の10%ほどの体内に繁殖している(コロナイゼーション)と言われています。しかし、肺炎球菌の感染がどのように広がるのかについては、現時点では明らかになっていませんでした。

この研究では、18~45歳の健康な男女40人を(1)肺炎球菌を加えた水で濡らした手の甲を鼻に近づけて吸い込む群、(2)肺炎球菌を乾いた状態で手の甲に付着させて鼻で吸い込む群、(3)肺炎球菌を加えた水で濡らした指で鼻をほじる群、(4)肺炎球菌を乾いた状態で指に付着させて鼻をほじる群の4群に分けました。

9日後、全体の20%の人の鼻咽頭に肺炎球菌の繁殖(コロナイゼーション)がみられ、最も多かったのは肺炎球菌を加えた水で濡らした指で鼻をほじるwet poke群(40%)と、同様の水で濡らした手の甲に鼻を近づけて吸い込むwet sniff群(30%)でした。この結果について、Connor氏らは乾燥した環境では細菌が死滅しやすいことが要因ではないかとの見解を示しています。

鼻やのどに肺炎球菌が(繁殖して)いても、元気で無症状の人はいるため、肺炎球菌の感染症にかかっていることにはなりませんが、

「肺炎球菌は世界の死亡の主な原因菌で、年間120万人もの5歳未満の小児がこの細菌によって命を落としている」とConnor氏は説明しており、高齢者や免疫力が低下した慢性疾患を有する患者なども肺炎球菌の感染リスクが高く

幼い子供達が、高齢の祖父母や免疫不全のある親戚と会う際には肺炎球菌に感染すると重症化しやすいため、手を洗うことが大事である、と言えるでしょう。

この研究からは、手指の衛生に加えて子どものおもちゃを清潔に保つことは、幼い子どもたちを肺炎球菌の感染から守り、学校などでの集団感染や高齢の家族への拡散を防げる可能性があることが示されました。ただ、Connor氏は、細菌の存在によって子どもの免疫系が鍛えられ、その後の肺炎球菌などを保菌するリスクが低下するとも言われており、「鼻をほじることは悪いことだけではないかもしれない」とコメントしています。

(滝沢より追加)

乳幼児、高齢者は肺炎球菌に感染すると重症化することがあるため、肺炎球菌の予防接種が推奨されています。幼少時に感染を繰り返すことにより、様々な細菌、ウイルスに対する免疫を獲得するため、過剰に神経質になる必要はないと思いますが、手洗いは必要ですし、やはり鼻をほじるのは、あまり良くないようです。

 

原著論文:Hands are vehicles for transmission of Streptococcus pneumoniae in novel controlled human infection study Victoria Connor, et al.   European Respiratory Journal 2018 Oct 10,